人材育成の記事

強い経理部を作ろう!経理部の人材の育て方

経理の仕事は専門職であり、汎用性が高い、いわゆる「転職に強い」仕事です。また、日商簿記等の明確な資格試験もあり、ステップアップできる環境は整えられているように思います。
一方で、できる経理が欲しいと企業が思ったとき、転職市場から見つけ出すことは困難に思えます。また、自社の人材をどのように育成すべきか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
今回は経理という仕事の本質、「できる経理」とはどういうものか、また、どういう風に育成するべきか、社内(上司としての)視点と社外(監査人等、外部からの)視点を交えつつお伝えしたいと思います。

なお、今回の記事では中小・中堅企業、自社で記帳していて、経理部門人材が3~9人程度の会社を想定して記載しています。大企業や専属の経理がいない状態でも参考にしていただける部分はあるかもしれませんが、また少し状況が違うかと思いますのでご了承ください。

人材育成の目標設定

まず、人材育成のゴール、人材育成によって何をしたいのか?について考えていきましょう。
経理人材育成とは、自社の経理スタッフのレベルを上げていくこと。ただ、育成の先、スタッフがレベルアップした結果、どうしたいのか?はそれぞれの会社により異なるかと思います。

・会社の管理レベルを上げたい
・コストを減らしたい
・早く帰りたい
・やりがいをもって働ける職場にしたい
…などなど。
まずはそれを明確にすることが、育成方針や具体的な方法を考えるうえでも非常に重要です。
この時、具体的でなくてもいいので、なるべく長期的な目標設定を考えていく方がいいでしょう。人材育成自体、長期的な取り組みにならざるを得ませんので、短期的な目標しかないのであれば、人材育成という方法自体がマッチしていない可能性もあります。

できる経理とは?

上記を前提に、できる経理とはどういう経理か?ということについて考えてみたいと思います。

経理という仕事の本質

目標設定にも関連しますが、経理という仕事は、会社によって千差万別です。また、なかなか会社の外に出てこない情報でもあり、非常にブラックボックス化しやすい性質を持っています。
ただ、強い会社を作っていくという観点で整理すると、経理のコア業務は、会計情報を記録し、整理し、経営者層に伝え、会社ががその情報を活用できるようにしていく仕事である。と言えるかと思います。

要素としては、
・専門知識を使った情報の整理
・経営者層への伝達
・情報活用への貢献
こういったところが、経理の本質です。

経理に必要な能力

一般的に、経理人材に求められる能力は
・速く正確に事務処理ができる(事務処理能力)
・経理面、税務面での適切な判断ができる(専門知識)
といったことが挙げられます。

一方で、実際に接した経理スタッフに対し、現場や上司からは、
・現場を理解していない
・話が通じない
・もう少し経営に意味のある仕事をしてほしい
・成長意欲や上昇志向がない
といった声が挙げられるのではないでしょうか。

例えば、スタッフAは専門知識をしっかり勉強し、能力の研鑽を怠らない。Aさんがいないと経理は回らない。経理部内での評価は高いですが、現場からの評価はイマイチ。一方Bさんは人当たりが良くて現場からの評判はいいものの、間違いが多く、簿記について勉強する様子もない。
Aさん、Bさんいずれも成長してほしいと思っている責任者は、Aさんには「もっと人当たり良く」「コミュニケーションをとって」と伝え、Bさんには「もっと勉強して」「簿記の資格を取るように」と伝えますが、なかなかうまく行きません。
そんな中、人事考課の時期が来ました。あなたが責任者だったら、AさんとBさん、どちらを評価しますか?

経理のコアな業務はAさんが全てやってくれているからAさんでしょうか?
それともAさんだけだとうまく行かない折衝をBさんが間に入ってくれているからBさんでしょうか?
中小企業の経理育成の難しさは、こういった状況に集約されています。

上記に挙げた能力は、いずれも経理人材に求められる必須の能力ですが、逆に言えば両立するのが難しいスキルセットでもあります。専門能力を磨くことが苦にならない人は、コミュニケーションに難があることが多く、コミュニケーションが上手な人は、専門能力に頼らずとも生きていける自信からか、日々研鑽をして能力を高めることが苦手な人が多いというのは、多くの人が持つ実感でしょう。
1人1人の能力やコストが相対的に大きい中小企業において、これらを両方満たした「理想の」人材を、自社が出せる給与で取ってくる、というのはほぼ不可能に近いと言えるでしょう。

育成って不可能?

取ってくるのは不可能ということは、育成も不可能では?と思われるかもしれませんが、実は育成は不可能ではありません。
外から取ってくる人材と中で育てる人材には圧倒的な知識・経験の差があるからです。
それは、会社によって異なる「ビジネスの理解」や「自社への適応」という側面です。
社内で育成する場合、「ビジネスの理解」や「自社への適応」を満たしたところからのスタートになります。
また、専門知識に関しても「一般的な会計の専門知識」ではなく、「自社に関連する知識」だけを習得していればいいことになります。
したがって、人材育成によって外部から獲得するよりも効率的に経理のレベルアップをすることは可能です。

育成の難しさと対処法

一方で、中小企業が社内で育成することの難しさとしては、以下のような点が挙げられます。

・育成対象のスタッフより高い専門知識を持った人が社内にいない
・人数が少なく、比較対象がいない

上記のAさん、Bさんの事例は、私が実際に数多く目にしてきた事例ですし、私自身も上司としてAさんやBさんのような人を指導してきました。
そこで強調してきたのは、「井の中の蛙になるな」ということ。
特に中小企業では、周りに比較対象が少なく、自分の現状に満足してしまいがちです。先ほどのAさんもBさんも、お互いの比較では同様のレベルにあり、満足している状況にありますが、上司としては2人とも足りない部分があるという認識でした。
能力不足の認識を2人に伝えるためにも、評価者自身が外部とのつながりや情報交換を進め、自社の経理のレベル感を確認していくことにより、本人たちに自覚させていくことが重要です。

例えば、外部監査や金融機関からのフィードバックのほか、決算のスピード、予実の精度など、他社がどのようなレベル感でやっているかを知っていくことが、「井の中の蛙」を抜け出す有効な手段となります。

他には、あえて外部業者を利用するという手もあります。人材育成を手掛ける会社であれば理想的ですが、そうでなくても外部業者に一部経理業務を委託することにより、比較対象・情報収集先として外部とのつながりを持ち、人材育成に役立てていくことをお勧めします。

また、経営者層への報告を担当させていくこともお勧めです。経理部門の上長は、彼ら(彼女ら)の良き理解者でもありますが、聞き手として物分かりが良すぎる面があります。専門家としての知識を持たない「本来のクライアント」である経営者層への報告を通じて、自身の理解の足りないところ、表現を平易にしていく難しさに触れるということも、経理としては非常に勉強になる経験です。

まとめ(経理人材育成の考え方)

上記をもとに、経理人材育成の考え方と方向性を整理します。

・人材育成の目標から
目標は会社により異なります。まずは自社が経理人材育成により何を得たいか、目標を明確化することをお勧めします。

・経理業務の本質から
経理業務の本質は情報処理とコミュニケーション。経営に役に立つ情報をしっかり伝えることができて初めて経理の役割を果たしたことになります。情報処理のための専門知識と、社内での情報活用のためのコミュニケーション、その両輪が必要です。
自社の人材がどちらに長けているか?どちらを伸ばしたいか?を常に考えておきましょう。

・育成の方法論
育成の難しさは、比較対象の乏しさと外部接触の少なさにあります。
比較対象を拡大するため、積極的に外部とのつながりや情報交換を進めましょう。また、経営者への報告を直接させるなど、門外漢の相手への報告の機会を作りましょう。

株式会社タクセルの経理代行サービス「リモート経理部」では、単純な事務代行にとどまらず、社内人材育成のお手伝いも行っています。貴社の業務の一部を代行させていただき、業務内容も整理しながら、一歩先、二歩先の展開を踏まえて人材育成と役割分担の変更に柔軟に取り組みます。
社内との関わりが中心でなかなか育成の機会を持つのが難しい、専門知識やノウハウが不足していて社内での育成ができていないなどのお悩みがありましたら、お気軽にご相談ください。

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この記事の著者

松本 桂一

代表取締役 公認会計士

大手監査法人を退職後、CFOとして中小企業の成長フェーズを経験。
マネジメントや組織の変化対応を中心にIT、人事、総務を含めた管理部門の業務を網羅。海外赴任や海外子会社の設立・運営も経験しており、シンガポール、香港など海外業務対応に強み。

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